【After Story】残照

47/59

426人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
「今のは……俺の幻聴だったか?」  口元を隠したままで、くぐもった声が尋ねる。 「違うけど」  背もたれから身体を起こして答える。混乱の色が濃い瞳が、まるで助けを求めるように見つめてくる。 「言ったことなかったなぁって」  泰輔と俺との間には、いろんな感情があって、それが複雑に混ざり合っている。温かで穏やかな気持ちだけを持つことは、この先もないのかもしれない。  それでも、泰輔に「佑輝は俺のどうしようもない気持ちに応えているだけだ」と言われれば、「みくびるな」と腹が立つくらいの愛情はある。  もっと欲しがれよ、と思うし、何かを与えたくなってしまう。  ついには飲みかけの缶をテーブルに置き、両手で顔面を覆った泰輔は、さっきよりさらに深く、長く呼吸をした。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

426人が本棚に入れています
本棚に追加