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「今のは……俺の幻聴だったか?」
口元を隠したままで、くぐもった声が尋ねる。
「違うけど」
背もたれから身体を起こして答える。混乱の色が濃い瞳が、まるで助けを求めるように見つめてくる。
「言ったことなかったなぁって」
泰輔と俺との間には、いろんな感情があって、それが複雑に混ざり合っている。温かで穏やかな気持ちだけを持つことは、この先もないのかもしれない。
それでも、泰輔に「佑輝は俺のどうしようもない気持ちに応えているだけだ」と言われれば、「みくびるな」と腹が立つくらいの愛情はある。
もっと欲しがれよ、と思うし、何かを与えたくなってしまう。
ついには飲みかけの缶をテーブルに置き、両手で顔面を覆った泰輔は、さっきよりさらに深く、長く呼吸をした。
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