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「……悪い、ちょっと待ってくれ」
そんな泰輔のセリフをスルーして、両手を伸ばした。泰輔の手首を掴んで、顔を隠す手を外させる。わずかな抵抗はあったものの、俺の誘導に従って泰輔の両手は膝の上に落ちた。
現れたのは、ひどく情けない表情をした泰輔で。わずかに潤んだ目が俺を見ていた。
「やっぱ、可愛いな泰輔」
しみじみと呟いたあと、すぐそばで息を詰める音が聞こえた。直後、手の中からすり抜けた泰輔の手が、俺の背後に回って抱き寄せてくる。
「……可愛いのは、佑の方だ」
耳元で響いた声が、くすぐったい。内容もむず痒いものを感じるが、言い出したのはこっちなので文句は言えない。
未だ落ち着かない気持ちをどうにかしようとしてか、泰輔が深呼吸をする。
「……心臓が、止まったかと思った」
何度か呼吸を繰り返してから、泰輔がぽつりと言った。
それは言い過ぎだろうと思ったけど、密着した身体から伝わる鼓動はまだかなり早い。
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