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「泰輔、俺、やめるわ」
その言葉は泰輔にではなく、暗い水面に向けて呟いた。何が、とは言わなくても伝わった。
「佑」
泰輔の足元で砂利が音を立てる。
「次があるだろう」
大学二年の秋。引退にはまだ早かった。
「ごめん、もう……限界」
これまで何度も、こんな風に泰輔に弱音を吐いたことがある。ボロクソに打たれた高校の試合。怪我の悪化。だけど今のそれは、以前のどれとも違っていた。
「佑輝」
静かな呼びかけにもただ首を横に振った。泰輔は俺の両肩を掴んで強引に向き合う形にさせた。俺はまっすぐに泰輔が見られなくて俯いた。試合が終わっても泣かなかった。あの時堪えられた涙が、どうして今になって流れてくるんだろう。泰輔は俺の顔を隠すように引き寄せて抱きしめた。あやすように背を叩かれて、余計に涙が止まらなくなる。
「どんなに頑張っても、足掻いても、どうにもならないことがあるんだって、今日、ほんとの意味でわかった、から」
不自然に途切れさせながら言葉を紡いだ。泰輔は「そんなことはない」と言わなかった。ただ黙ったままずっと俺を抱きしめていた。
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