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「おいおい、主役が何してんだよ。ちょっと大人しすぎやしませんかー?」
突如俺と泰輔の間に割って入ってきた草壁が、泰輔の肩を抱いて揺さぶる。草壁は現在泰輔と同じ会社、部に所属する遊撃手だ。泰輔がドラフト候補になった時、「なんで泰輔が候補に入って俺に誘いがないんだ!」と憤慨していたけれど、この浮かれようだ。内心は長年のチームメイトが評価されたことに喜んでいるのだろう。
「頼むぞ、泰輔! 新人王でもなんでも獲って、女子アナとの合コン開催待ってるからな!」
「無茶を言うな。それに他力本願はやめるんじゃなかったのか? 草壁はすぐにそうやって……」
「ああ! なんてことだ、朝倉選手のグラスがカラだぞ! 早くおかわりの注文を!」
泰輔の苦言をわざとらしいセリフでかき消した草壁に、女子アナ合コンに便乗したい面々が「よろこんで!」と返事をし、呼び出しボタンを押したり、メニュー表を差し出したりと素早い反応を見せる。
「あれ、でも草壁ってこの間飲んだ時に美人の彼女ができたってはしゃいでなかったっけ?」
ふと思い出して訊ねると、草壁は俺に手を伸ばし、首を絞める真似をする。
「どうせひと月でフラれましたよー。俺は佑輝クンと違ってモテませんからねえ? 人に頼るしかねえんだよ!」
「……ちょ、俺別にモテないし、……ぅ」
苦しがって見せると、草壁は首から手を離して、代わりに縋るように身体を寄せてきた。
「うるせえ、彼女持ちがぁ! ズリぃよ! 俺にも女の子紹介してくれよ!」
完全な八つ当たりをしてくる草壁を押し返すが、力いっぱい抱きつかれて一向に離れない。
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