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第2章
「佑」
低いけどよく通る声が、夜の闇の中に響く。俺は声がした方へと振り向いた。木々に囲まれた総合運動公園はとても静かだ。街灯のお陰で真っ暗ではないが、それでもやはり薄暗い。グレーに黒のラインが入ったジャージに身を包み、肩にはエナメルバッグ。練習帰りの泰輔がゆっくりと傍まで来る。木製のベンチに座ったままでいると、泰輔が少し間隔を空けて隣に座った。
「ごめん、急に」
「いや」
唐突に呼び出したことを短く謝罪すると、泰輔も同じように答えた。
この公園の中にある球場で行われたチーム練習に参加する泰輔に、『近くで待ってるから終わったら連絡をくれ』と半ば一方的に約束を取り付けた。
「どうしたんだこんな急に、って訊かないのか?」
ややおどけたように訊ねると、泰輔は少し黙り込んだあと遠慮がちに口を開いた。
「ここ寒いだろ。どこか店ででも待っていればよかったのに」
スーツの上に黒のトレンチコートを着た俺を、泰輔がちらりと見た。
「そんなに待ってないし。てか、あんまり人のいるとこにいたくない気分っていうかさ」
答える声はない。
先ほどまでは時折ランニングやウォーキングをする人が通り過ぎていったけど、今は誰の気配もしない。
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