第3章

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第3章

 忘れられない情景がある。何年経っても消えないあの日の記憶。  雲一つない澄んだ青空。清々しいほどの秋晴れだった。ベンチや背後にいる仲間たちの期待と信頼の視線を感じながら振りかぶる。まっすぐに俺を見据える泰輔に向かって放った白球は、次の瞬間、小気味よい音を響かせて宙を舞った。一面の青に吸い込まれそうなくらいに高く。  サヨナラ逆転ホームラン。この回さえ守れば勝てたのに。  自分の気持ちが、努力が足りなかった?  いや、違う。そんなことはない。プロになりたいと願ってから今まで、努力しない日なんてなかった。他を犠牲にしてきたつもりはないけれど、脇目もふらず野球にだけ打ち込んできた。その結果がこれなのだ。  試合が終わっても、誰も俺を責めなかった。  打ち上げのあとみんなと別れても、泰輔は何も言わずに俺の隣にいた。俺も理由を訊かなかった。何気なく最寄駅の少し前で電車を降りて無言で歩いた。何度となく走り込んで、泰輔と投げ込んだ河川敷までたどり着くと足を止めた。  試合を決めた最後の一球。俺のボールは思い描いた場所へは、泰輔のリード通りには投げられなかった。俺のせいで負けたんだ。
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