偶像

3/14
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「ただいまー」  オートロックの玄関を開けると、先に帰宅してた(ハク)が、だらしのない格好でソファに寝っ転がり、スナック菓子をつまみながらテレビを見ていた。 「お帰り。セイ()ぃ」  ひらひらと手を振り、長い前髪と眼鏡の奥……隠れてよくは見えないが、ぽかんと口を開け、呆れたような表情の(セイ)に、「どした?」と、首を傾げた。 「まだ、日の入りまでもうちょっとあるけど……もう寝間着……?」 「おう! 今日はもう、出かける用事も無いしな」  (ハク)にため息を吐きながら、セイは学校帰りにスーパーで買ってきた食材を、とりあえず静かにテーブルに置く。  外気と室内の気温差で、セイの眼鏡が、徐々に曇って真っ白になった。 「今日ぉ~のごッ飯は、なんでしょね~!」 「あ! こらッ!」  レンズを拭いてる間にハクがガサゴソとスーパーの袋を漁る。  慌ててセイが袋を取り上げようと手を伸ばすと、テレビのリモコンを落としてしまい、拍子にボタンが当たったか、違うチャンネルに切り替わった。  ふと、二人の手が止まる。  ワイドショー番組から流れる、艶のあるハスキーな声。  画面に映るのは、愛嬌のある、大きなくりくりとした目が特徴的な、可愛い顔。 『SYUKA(シュカ)』。  元々は、ロックバンド『Pleiades(プレイアデス)』のヴォーカリストだったが、リーダーの難病発症と治療に専念する為の芸能界引退により、約二年の活動でバンドは解散。  解散後は、同じバンドでベーシストをしていた双子の弟『GENTO(ゲント)』とともに芸能界に残り、SYUKA(シュカ)自身は、ソロ&アイドルとして、方向転換。  ──以降、歌だけに限らず、ドラマや映画のヒロインや、バラエティ番組にひっぱりだこであり、グループ・アイドル全勢期のご時世にもかかわらず、一定の人気を得ている。 「うーん……こうして見れば(・・・・・・・)、可愛いんだけどなぁ」 「……可愛くない」  ハクの言葉をセイが全力で否定する。 「全然(ぜんっぜん)絶対(ずぇったい)に可愛くなんてないからな!」  うわぁお……兄の地雷を踏み、セイの本気の剣幕に、思わずハクは後ずさった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!