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「ただいまー」
オートロックの玄関を開けると、先に帰宅してた弟が、だらしのない格好でソファに寝っ転がり、スナック菓子をつまみながらテレビを見ていた。
「お帰り。セイ兄ぃ」
ひらひらと手を振り、長い前髪と眼鏡の奥……隠れてよくは見えないが、ぽかんと口を開け、呆れたような表情の兄に、「どした?」と、首を傾げた。
「まだ、日の入りまでもうちょっとあるけど……もう寝間着……?」
「おう! 今日はもう、出かける用事も無いしな」
弟にため息を吐きながら、セイは学校帰りにスーパーで買ってきた食材を、とりあえず静かにテーブルに置く。
外気と室内の気温差で、セイの眼鏡が、徐々に曇って真っ白になった。
「今日ぉ~のごッ飯は、なんでしょね~!」
「あ! こらッ!」
レンズを拭いてる間にハクがガサゴソとスーパーの袋を漁る。
慌ててセイが袋を取り上げようと手を伸ばすと、テレビのリモコンを落としてしまい、拍子にボタンが当たったか、違うチャンネルに切り替わった。
ふと、二人の手が止まる。
ワイドショー番組から流れる、艶のあるハスキーな声。
画面に映るのは、愛嬌のある、大きなくりくりとした目が特徴的な、可愛い顔。
『SYUKA』。
元々は、ロックバンド『Pleiades』のヴォーカリストだったが、リーダーの難病発症と治療に専念する為の芸能界引退により、約二年の活動でバンドは解散。
解散後は、同じバンドでベーシストをしていた双子の弟『GENTO』とともに芸能界に残り、SYUKA自身は、ソロ&アイドルとして、方向転換。
──以降、歌だけに限らず、ドラマや映画のヒロインや、バラエティ番組にひっぱりだこであり、グループ・アイドル全勢期のご時世にもかかわらず、一定の人気を得ている。
「うーん……こうして見れば、可愛いんだけどなぁ」
「……可愛くない」
ハクの言葉をセイが全力で否定する。
「全然、絶対に可愛くなんてないからな!」
うわぁお……兄の地雷を踏み、セイの本気の剣幕に、思わずハクは後ずさった。
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