偶像

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「先にちゃんと(・・・・)裏とって(・・・・)、取材に来てくださいね」  元々、この場に、彼に対する嫉妬心が、無かったとは言わない。  故に、男は思わず反射的に、セイを殴り飛ばした。  突然の不意打ちに防御することもできず、男の拳をまともに顔面にくらい、セイはそのまま尻餅をつく。  壊れたセイの眼鏡のフレームが、かしゃんと音をたてて道路に転がった。 「……ったぁ。何をするんです!」 「ガキがッ! 大人を馬鹿にするなッ!」  セイが鼻を拭った。  学ランの中の白いシャツの袖に、じんわりと赤い血が滲む。  その時、つんざくような悲鳴があたりに響いた。 「あ……朱夏……」  わなわなと震える朱夏が、大きな目を丸く見開き、二人を見つめていた。   隣には、同じく補習帰りと思われる葉月の姿もある。 「な……ななな……」  怒りに震える朱夏が、鋭い剣幕で男ににじり寄る。  その間に、そっと葉月がセイを助け起こした。 「セイ、大丈夫?」 「あー、鼻血出てるけど一応……」 「左頬も、結構すっぱり切ってるけど」 「マジか」  セイがごしごしと頬を拭うと、袖の赤い染みが、葉月の言葉を裏付けるように広がった。  どうせ洗濯(しみ抜き)するのは自分だと、セイは諦めて、そのまま袖を押さえて止血に努める。     
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