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第17章 ニセモノの恋人
「あ」
わたしの短い声に、開いたエレベーターの中に一人立っていた松葉くんが反応して顔を上げた。ぱっと表情が明るくなったように見える。
「桃。…また忙しそうだな、ばたばたして」
「普通だよ。通常運転だもん」
軽く笑って受け流し、さっさと箱に乗り込む。階数表示のボタンを押しかけて背後に彼がすっと身を寄せてきたのに気づいた。ちょっと、不穏な予感。
「…桃」
ドアがすっと閉まるなり、ぎゅっと背中から抱きすくめられる。慣れた体温と彼の匂い。反射的に身体が受け入れ準備を始めそうになり慌てて身を引き剥がそうとする。
「ちょっと、こんなとこで。…誰か乗ってくるよ、すぐ」
彼は力任せにわたしを引きとめ、耳朶に舌を這わせながら強引に胸を揉みしだいた。
「だけど前に言ってたろ、お前。俺がしたい時はいつでもやらせるって。口先だけのごまかしじゃないって。…今ここで証明してよ。全部俺のものだろ、お前のこれも?」
そんなこと。…ああ、まあ。言ったけど。
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