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奴はスプーンでカップを丁寧にかき回してそれを溶かしながら案外さばさばした声で話を続けた。
「会社の子じゃないよ。得意先の店に勤めてる子なんだけどさ。前から親しくしてて、いい感じだなとは思ってたんだけど…。この前、向こうから告白されちゃって。わたしと付き合ってくださいとか、結構真正面からさ。…そしたら、やっぱ断るのは勿体ないなと。可愛くて、素直で。俺のこと好きって言ってくれてるし、何よりいい子だし」
ふぅん。わたしは黙って肩をすくめてブラックのままコーヒーを飲んだ。別にそんなこと、教えてもらう必要なんかないんだけど。こっちは。
だけどまあ、そういうことなら。特に問題はないでしょ。結局取る道はひとつしかないわけだし。
「わかった。じゃあ、これでわたしたち終わりってことで。…今までどうもね。幸せになってください」
コーヒーを最後まで付き合う義理もない。熱くて全部は飲み干せなかったけどそこそこに立ち上がろうとする。不意に向かいから腕が伸びてきて、がっしりと手を取って引き止められた。焦りの感じられる声が飛んでくる。
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