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わたしは霞のかかったような頭で他人事みたいに考える。早く帰りたい。この人の話、いつ終わるんだろ。さっさと切り上げてくれないかな。
ここは頷いておけば早く帰れる。それだけがはっきりわかったから、わたしは何も反論せずに、大人しく従順に小さく頷いてただそう応じた。
「…うん。わかった。…大丈夫だよ、わたし」
しばらく頭の中に何か豆腐みたいなものが詰まったような。はっきりものが考えられない状態で過ごした。
これでいいじゃない。ぽかんとした空虚な洞穴みたいな胸の内側で、やや理性的な小さなわたしが盛んに囁きかけてくる。
どのみち別れたかった男でしょ。これ以上束縛されたりしつこく執着されたりっていうより、他に目が向いただけでもありがたかったじゃない。
何でこんな風にショックを受ける必要があるの?どうしてそんなに落ち込んで、虚ろな目でぼんやり歩き回ってるの?
…わたしは落ち込んでるのかな。
表面を何とか繕いながら仕事をこなし、職場の人たちや得意先の相手と笑って明るくやり取りしながら裏ではどこか上の空でそんな風に考えていた。
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