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「ごめんね。そうだよね、結衣ちゃんは素直だから」
宏樹さんはそう答えただけで、当時の私の気持ちを追求しなかった。
「でも、当たり前だけど、逃げた理由はそれじゃない」
ふざけるような調子だった宏樹さんの声音が真面目になった。
「俺、小さい頃から和樹が脅威だったんだよね。俺よりずっと和樹の方が経営者に向いてるのはわかってた。そのことに周囲が気づくのが怖かったんだ」
那須で和樹さんから聞いた話を思い出した。
経営者になるプレッシャーだけでなく、そんな劣等感とも戦って いたなんて。
「俺さ。結衣ちゃんのことは本当に好きで大事なんだよ。でも、だんだん気づき始めたんだよね。これは妹に対 する感情だって。だから結衣ちゃんが和樹と再会したあと、俺より和樹を見てることに気づいた時、逃げるのも いいかなと思ってしまったんだ。結衣ちゃんはきっと許してくれるだろうと」
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