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それは結婚準備と同時期だ。なのに私は傍にいながら全然気づいていなかった。
それどころか、宏樹さんに指摘されたように、和樹さんを見つめていた。
「私が一番気づかなきゃいけなかったのに……ごめんなさい」
ジャガイモの汁がついたままの手を前で組み、宏樹さんに向き直って心から頭を下げた。
「いや。結衣ちゃんに気づかれなくて救われた。俺をヒーローだと信じてくれたのは結衣ちゃんだけだから」
その言葉で私も救われた。
胸が詰まってしまって、目尻に浮かんだ涙を指で拭いながら続きを聞いた。
「俺が社長の椅子に憧れてたら、みっともなくても逃げなかったよ。でも俺、常務として必死に見栄張ってたけど、もう義務感だけだったんだよね。あのまま会社にいたら、生きたまま自分を墓場に埋める気がしたんだ」
私と結婚したら、もう逃げられない檻の中だ。
今なら痛いほどわかる。
宏樹さんが置かれていた状況も、私が幼かったことも。
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