519人が本棚に入れています
本棚に追加
「私、子供でしたね……」
私がボソッと呟くと、宏樹さんは否定も肯定もせずに微笑んだ。
いいかげんだけど、相手を絶対に否定しない人なのだ。
ところが次の言葉に、私は真っ赤になった。
「でも、ちょっと会わない間に大人のいい女になったね」
「へっ、変なこと言わないでください」
「本当だよ。理由は和樹だろうなと思ってね」
宏樹さんはそう言ってニヤニヤした。
火照った顔を隠すようにまた宏樹さんに背を向けて調理に取り掛かる。
水にさらしたジャガイモをザルに取り、牛肉を炒め始めた。
「和樹はもてるから、苦労してるんじゃない?」
完全に無視しようと思ったのに、私が釣られてしまうような質問を投げてくるところが上手い。
「あの……前の会社に、こ、恋人がいたとか、聞いてませんか?」
「前の会社かどうかは知らないけど、まあそりゃ彼女ぐらいいたんだろうね。いつのことかは知らないよ」
少なからずショックを受け、「そうですよね……」と私は口の中で呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!