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「コーヒーを淹れてきますね」
一抹の虚しさを感じつつ、私は二人に声をかけ、わざとキッチンに席を外した。
丁寧に豆を挽き、できるだけゆっくりコーヒーを淹れる。
その間に、平和な休日の午後から一気に混乱に陥ってしまったこの十分間の動揺を鎮めた。
コーヒーカップを三つお盆に乗せてリビングに戻ると、さきほどとは違う話題になっているようだった。
「生活に支障はないよ。風呂だってまあ頑張れば自分で入れる。結衣ちゃんに介助してくれとは言わない。たぶんね」
「……」
「冗談だよ。まあそう目くじら立てるな、和樹」
「ここに来てそういう冗談が言える神経が信じられないね」
私が来たことに二人がなかなか気づかないので、「コーヒーを持ってきましたよ」と声をかけた。
「あ、結衣ちゃんありがとう。俺を受け入れるのは結衣ちゃんの負担が重いって言うんだよ、和樹が」
和樹さんが口を開くより先に、宏樹さんが声を上げた。
和樹さんはむっつりと押し黙っている。
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