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なぜだろう? この短い会話で、私は和樹さんから別れを告げられたようなショックを受けた。
彼の表情もどの言葉にもそんな要素は含まれていないのに。
それは理屈では言い表せない、どこか予感めいたものに似ていた。
正直なところ、私は和樹さんに受け入れを拒否してもらいたかった。
宏樹さんを私から遠ざけるぐらいの独占欲を期待してしまっていた。
逆に、もしかすると、和樹さんも同じように私が拒絶することを期待したのだろうか?
なのに私がすんなり承諾してしまったからあんな表情を……?
いずれにしても、那須から続いていた幸せの余韻はすっかり消えてしまった。
廊下では、宏樹さんの居室として和樹さんが空いている部屋を案内しているらしく、あまり和気藹々とは言えない二人の声が聞こえてくる。
帰宅時の衝撃でテーブルに放置したままだった車の契約書の封筒を棚の引き出しに入れながら、私は重い溜息をついた。
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