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和樹さんが私を突き放した理由は、その翌日明らかになった。
夜、夏目の母から電話があったのだ。
『結衣、今電話して大丈夫?』
「うん。大丈夫よ」
明日火曜から金曜までの四日間、和樹さんは広島に出張するので、私は片手でシャツなどを出張用のバッグに詰めながら電話していた。
どういう訳か母の声は小さく、声を潜めて電話している様子だった。
『実はね。お父さんが引退したのよ。ただのお爺ちゃんになっちゃったの』
「ええっ? だって……二つあったじゃない。夏目の取締役と、銀行顧問と」
着替えを詰め終え、あとは和樹さんが洗面用具を足すだけにすると、私はキッチンの椅子に座って母の話に集中した。
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