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『お母さんはよかったと思ってるの。お父さんはずっとあくせく戦ってきたからね、もう休んでほしいのよ。でもお父さんは情けない気分だわよね。客を失い、肩書を二つとも失っちゃったんだもの。それがお父さんの拠り所だったのに』
「今、お父さんは?」
『お風呂よ。だからこっそり電話してるの』
母は声を潜めて笑った。
『お父さんは急に暇になっちゃって気分がふさぎ込むだろうから、結衣も遊びに来てあげて』
「わかった」
電話を切った私は、そのままキッチンの椅子でスマホを握りしめたままこの状況にじっと耐えた。
和樹さんは今まで宮瀬を利用してきた父を切り捨てた。
そのことを私には一言も教えてくれなかった。
でも、ビジネスだから仕方がないのだ。
私はそういう立場に生まれついたのだから。
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