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「答えてください。本当に和樹さんが父を退任させたんですか? 融資ルートを変えれば父の存在価値がなくなるから、それを狙って──」
「そうです」
普段柔らかに響く彼の声は、今はとても冷淡に聞こえた。
「宮瀬にとって、これまであなたのお父さんは重要な存在でした。お父さんがそうなるように仕向けてきたからです。そうした宮瀬の父の外交のまずさを僕が是正したまでです」
言われた内容よりも、私の呼び名が〝結衣〟から〝あなた〟に変わったことに衝撃を受けた。
「和樹さんにとって、私は何だったんですか……? 抱くだけ抱いて、大事なことは何も言ってくれない。周りはみんな知っているのに、私だけが……」
涙が溢れてきた。
和樹さんの前で泣くのは初めてだった。
「私にだって心があるの。私は人形じゃない!」
金切り声が部屋の空気をビリビリと震わせた。
こんな声で叫んだのも、人生で初めてだった。
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