裏切りの予感ー2

29/31
前へ
/31ページ
次へ
「答えてください。本当に和樹さんが父を退任させたんですか? 融資ルートを変えれば父の存在価値がなくなるから、それを狙って──」 「そうです」   普段柔らかに響く彼の声は、今はとても冷淡に聞こえた。 「宮瀬にとって、これまであなたのお父さんは重要な存在でした。お父さんがそうなるように仕向けてきたからです。そうした宮瀬の父の外交のまずさを僕が是正したまでです」   言われた内容よりも、私の呼び名が〝結衣〟から〝あなた〟に変わったことに衝撃を受けた。 「和樹さんにとって、私は何だったんですか……?  抱くだけ抱いて、大事なことは何も言ってくれない。周りはみんな知っているのに、私だけが……」   涙が溢れてきた。 和樹さんの前で泣くのは初めてだった。 「私にだって心があるの。私は人形じゃない!」 金切り声が部屋の空気をビリビリと震わせた。 こんな声で叫んだのも、人生で初めてだった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

512人が本棚に入れています
本棚に追加