偽りのキスー1

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それから野々花先輩は和樹さんに関するいろいろな情報を教えてくれた。 超難関国立大を出ていること。うちの社に入る前にいたコンサルティング会社では若手のホープとしてエリートコースを歩んでいたこと。 中には知っていることも多かったけれど、知らないことも結構ある。 着任が知らされてからの短い期間でよくこれだけ情報収集できたなと感心するほどだ。 「前の会社はいつでも帰って来いって、席を用意して待ってるみたいよ。でも、父親の会社に入るんだから、片道切符よねえ? 親の七光りでなく評価を受けるなんてさすがじゃない?」 そこで野々花先輩はぐっと声をひそめた。 「お兄さんより経営の才能があるんじゃないかって、陰でもっぱらの評判よ」 「常務も優秀だと思いますけど」 思わず宏樹さんの肩を持ってしまった私に、野々花先輩は「もちろんよ」と言ってニヤリと笑った。 「ふふ、結衣ちゃんは宏樹派ね。わかっちゃった」 どうやらカマをかけられていたらしい。 野々花先輩は策略家なのだ。
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