偽りのキスー1

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私と宮瀬和樹が結婚に至った経緯は、私たちが幼かった頃に遡る。 私が生まれる以前から、夏目家と宮瀬家は家族ぐるみの付き合いが続いていた。 父親同士が進学校の同級生だったという繋がりと同時に、それぞれの家業が密接な関係にあったことも大きいだろう。 宮瀬家は電子部品を主軸にした国内屈指のエレクトロニクスメーカーを率いる名門一家だ。 一方、私の父は直系ではないものの商社の社長一族の一員として長年経営に関わったあと、現在は投資銀行の顧問を務めている。 創業者から三代目にあたる宮瀬家の父親はおっとりした人柄で、生き馬の目を抜くような厳しい業界で舵を取るのにあまり向いているタイプではないらしい。やり手の先代社長が長く院政を仕切ることで業績を維持し、拡大してきた。 それとは対照的に野心家で抜け目のない夏目家の父には、隆盛を誇る宮瀬家との付き合いにしたたかな将来設計もあったのだと思う。 一人娘である私を、宮瀬家と縁組させることだ。
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