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「結衣ちゃんは、俺のお嫁さんになるんだよ」
「うん」
私の記憶にようやく残っているぐらいだから、私が物心ついた頃の、まだ三、四歳ぐらいのことだろうか。
おままごと遊びに付き合ってくれていた宏樹さんの言葉だ。
昔からおませでお調子者だった宏樹さんは。こう言うと父親たちが喜ぶことをちゃんと知っていたのかもしれない。
けれど幼い私には、宏樹さんはまるで王子様のように眩しく思えた。
おそらくその時の記憶だと思う。
対照的な兄弟二人の違いで覚えているのは、遊びから一人抜けた和樹さんが、庭の花をむしり取って捨てた出来事だ。
「和樹、お花を粗末にしちゃ駄目だぞ」
側溝に捨てられた花を見つけ、しょんぼりした私を庇うように宏樹さんが注意してくれた。
和樹さんは憮然として返事もしなかったけれど、どうやらそのあと親にもばれて叱られたようだった。
やけに和樹さんがヒールに見えた、幼い頃の他愛もない出来事がかすかに記憶に残っている。
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