第２話 偽りのキスー１

偽りのキスー１

この頃はまだ親同士の話し合いだけで進められていたので、宏樹さんと何度か顔を合わせた以外は、私には宮瀬家の詳しい近況を知る機会はなかった。

入社して初めて知ったのは、和樹さんが宮瀬ホールディングスに就職していないことだった。
兄の宏樹さんは次期社長として常務という重要なポジションに就いているのに、弟の和樹さんはというと、宮瀬とはまったく無関係の大手コンサルティング企業に勤めているという。
また、和樹さんだけ実家を出て、都内のマンションで暮らしているらしい。

昔から宏樹さんを中心として賑やかだった家族から少し距離を置くような冷めた雰囲気からして、彼らしいなと妙に納得したものだった。

ところが私が入社して三年目の冬、和樹さんが宮瀬ホールディングスに迎えられることになった。
その数か月前、長年指揮を執ってきた先代社長である祖父が亡くなり、この先の体制に不安を感じた両親のたっての願いを本人が受け入れたという。