いつか優しい雨になる-1

20/20
536人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「風……?」   こんな時間、こんな天候で、普段誰も住んでいないこの家に来る人間はいないはずだ。 私がここに居ることは、誰も知らないのだから。 恐怖で身がすくんだその時、声が聞こえた。 「……結衣!」   空耳だろうか。 膝から顔を上げたまま耳を澄ませる。 「結衣!」 この声は……。 夢遊病のようにふらふらと立ち上がる。 そんなはずはない。そんなことがある訳がないと思うのに、たとえ風のいたずらであっても確かめずにはいられなかった。 「結衣……!」   私がドアを開けるのと、もう一度叫び声が聞こえたのは同時だった。 そこには、ずぶ濡れの和樹さんが立っていた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!