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彼は髪からポタポタと雨の雫を落としながら肩で息をして、放心したように私を見つめている。
私のほうも自分の目が信じられず、無言で立ち尽くした。
彼がここにいる理由がさっぱりわからなかった。
離婚届はちゃんと置いてきたのに。
「いったい何が──」
「愛してる」
突如聞こえた言葉に思考が止まる。
きっと聞き間違いで、風のいたずらだ。
そう思った時、彼はもう一度同じことを言った。
「愛してる、結衣」
夢のような、私にとって都合が良すぎる言葉。
これまでの絶望が深すぎて、そんな言葉を頭がすんなり受け入れるはずもなく、理解することを頑なに拒んだ。
私は茫然と首を左右に振った。
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