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「お義父さんを退任に追い込んだのは悪かった。予想していなかったわけじゃない。融資ルートを夏目社長に乗り換えれば、お義父さんの立場が悪くなることはわかってた。認める」
彼が一歩踏み出した。
和樹さんは仕事からそのまま来たのか、ネクタイを締めたスーツ姿だ。
でも濃紺のはずのスーツは濡れて真っ黒に見えた。
「だけど僕は、結衣を自由にしたかった。ずっとお義父さんに閉じ込められて育った結衣は、自分の意志を後回しにする。僕と結婚させられたことも、宮瀬を想ってくれたからだろう? なのに僕はあの日、結衣を責めてしまった。だからいつか無傷で自由にしてあげようと決めた。なのに僕は……」
「無傷……?」
意味がよく分からず、ようやく出せた声で尋ねると、和樹さんはいよいよ苦しそうな顔になった。
「結衣を抱いてはいけないと、ずっと思っていた。式までにお義父さんの権力を削いで結婚を回避することが間に合わなかったから、せめて無傷で返すつもりだったのに。毎晩、結衣を見ていると地獄だった。欲しくて欲しくて、いつか抱いてしまうと」
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