幅員減少

2/3
前へ
/28ページ
次へ
 青年は、馬を引く御者と並んでデルフォイ方面に少し歩いてもどることになった。御者は青年が読んでいるパピルスが気になってしょうがない。 「あの、何を読んでるんですか?」 「あ、これですか。“月刊・線文字B”です」 「お!最新号ですか!私も定期購読しています。でもテーバイではだいたいひと月遅れですよ」 「それはどうして?」 「国の入り口に怪物がいて宅配が通れないことがあるんですよ」 「あ~、それなんか聞いたことがあります」 「で、今月号の特集は?」 「え~っと、巻頭特集は、“あなたはどっち派?カサンドラ占いとデルフォイの神託”、インテリアコーナーは“再流行の兆し、イオニア式コラムに注目!”このコラムは記事じゃなくて円柱のことですね。ファッション特集は“やっぱりエルメス!キュートな翼付きサンダルと帽子”あとは“ダイダロスの迷宮クイズ”、そんな感じです」 「けっこう女子向けですね」 「“アマゾネスの袋とじ”もありますけど」 「わぉ!」 「よろしかったら差し上げましょうか?」 「え?いいんですか?」 「ええ、もう1回読んじゃってますし、それに銀貨までいただいてますので」 「いや~ありがとうございます。正直、王様のお忍びのお伴っておおっぴらには何もできないですから、そのナニが終わるまでわたしはこっそり隠れてないといけないんですよ。まあ、退屈で、退屈で。でも今夜はこれをしっかり読ませていただきます」 しばらく進みポーキスの三叉路までもどると、エディプスは御者に別れを告げた。 「では、ここで失礼します」 「旅のお方もお元気で、テーバイでお会いできるといいですね。あ、入り口に狛犬(こまいぬ)みたいな怪物がいますから気をつけてくださいね」  すれ違いざま馬車の中の王様がちらっと見えた。気のせいかちょっとニタニタ笑っているようにも見えた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加