幅員減少

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幅員減少

 デルフォイからテーバイに向かう道、ポーキスの三叉路を過ぎると峠の1本道が続く。一人の青年が歩いている。年のころは17才くらい、褐色に日焼けし、すらりとのびた長い手足、ほっそりと引き締まったからだにやはり細く長い首、小さな頭がちょこんとのっかり、栗毛色の巻き毛が肩にかかっている。青年はパピルスを読みながら速足で歩いている。1本道はだんだんと狭くなっていく。「幅員(ふくいん)減少注意」の看板が立っている。前の方から(ひづめ)と車輪の音が聞こえる。青年がパピルスから顔を上げると、前方少し離れたところに小さいが立派な1頭立て馬車が近づいて、止まった。御者(ぎょしゃ)とおぼしき男が駆け寄ってくる。 「あの、すみません。馬車が通るので、すれちがえるところまでちょっとだけ戻ってもらえると助かるのですが」 御者は申し訳なさそうに言う。 「え~?でも、ずいぶん戻らないと広くならないですよ。そっちのほうは戻れないんですか?」 「何せ馬車ですからバックできないんです」 「じゃあ、馬車の屋根をぼくが乗り越えるとか・・・」 青年が提案すると、御者はお耳を拝借、とひそひそ声で 「実は、テーバイの王様のお忍びで・・・。どこに行くかは、その、内緒ですけど。まあ、お妃に内緒でのお忍びですから・・・」 誰もいないのにひそひそ話しをする必要はないだろう、と思いつつ、青年はうなずいた。 「王様の上をまたぐわけにはいきませんよね。わかりました。戻りましょう」 「いや~、ありがとうございます。ちょっと待ってくださいね」 そういうと御者は馬車に入り、しばらくして戻ってきた。 「王様がお礼にドラクマ銀貨1枚差し上げてくれと、どうぞお収めください」 「え?道を譲ったくらいで銀貨いただいていいんですか?」 「え~っと、まあ9割は口止め料ということで・・・」 「なるほど、わかりました」
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