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翌朝教室に入ると黒板にはアツコは援交してる。と大きく書かれていて、ハートマークまで付けられていた。その文字を消すこともなく、やはりホテルに出入りした現場を見られていたんだと一人うつむいて席に座り、隣のユカが、小声で「気にすることないよ。」と言ってから一つ一つ書かれた文字を消していった。担任が教室に入ってきた。アツコは立ち上がり、「先生、私、皆さんに話します。」と前に出た。「正直に言います。ごめんなさい。私が男性とホテルに入ったのは本当のことです。でも援交はしていません。私は65歳です。美容整形で顔の小皺取りました。私のお小遣いは国民年金と年金基金です。生活費は亡くなった夫が残してくれました。昨夜のカレシは夫が病で落ち込んだ時に出逢い系で知り合った行きずりの男で寂しさを紛らわすだけの人だったかもしれないし、昨日偶然原宿で再会して、またズルズル関係してしまいました。でも高校生としてはいけないことでした。先生、私は退学になっても構いません。」クラスメイト達は「ウッソー??」とか、「ババアかよ。若すぎるよ。」と驚嘆のため息が漏れていた。先生は「詳しいことは職員室で聞きましょう。席に戻りなさい。この時間は自習にします。」と困惑しながらも毅然とした態度で騒ぎを収拾させ二人は教室を出た。職員室に着くまでサヤカ先生が小声でアツコの耳元で「実はね昔、今の夫と交際中にラブホ入ったことあるのよ。生徒達には内緒よ。」とクスクス笑い出し、「あの頃は新鮮だったわ。」と一人思い出にふけり、アツコの事は特に考えていないような様子であり、あまり深刻に受け止めていないように見受けられた。それは現役の高校生ではなく、孫がいる年頃なのだし、妊娠する心配もないだろうし、むしろ、その年齢で良くやるわと言うため息さえ聞こえてきそうだった。しかし、職員室の扉の前で、「昔のラブホは回転ベッドがあると聞いて、ぐるぐる回るのかと思ったら、ゆっくりで、今のはどんなの?」と聞かれてもアツコは「まあ、普通のでした。」としか答えられずにいた。先生は校長室へと立ち去った。結局は自主退学の結果となったが、LINE交換していたクラスメイト達はアツコの家に遊びに来たり、原宿や渋谷へ日曜日には誘われ出掛けたりするようになった。恋愛問題の相談に乗ったりもした。アツコバーちゃんのほんの短い再び訪れた青春はまだまだ続いていた。
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