高校生にもなって鬼ごっことか

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── 鬼ごっこ当日。 全校生徒が体育館に集められた。 浮わついた雰囲気の中、生徒会長がステージに現れる。それと同時に上がる悲鳴。ちゃんと耳を塞いでおいた俺は偉い。 「今年のは新入生歓迎会は『鬼ごっこ』をする」 マイクを通した会長の声が朗々と響く。 「ルールは簡単だ。鬼側の生徒は捕まえた相手とデートが出来る。逃げる側の生徒は、逃げ切れば景品を生徒会から進呈する。制限時間は2時間。行動範囲は学園の敷地全て。鬼側の生徒は逃げる側の生徒のタグを狙え。それを奪えば捕まえた事になる。後でブレスレットの番号とタグの番号を照らし合わせて確認するので、誤魔化さないように。奪うタグの個数は特に指定しない。以上だ──っと、危ねぇ、忘れるところだった」 ごそごそとポケットから紙切れを出し、それを読み上げる。 「『このルールではデートをしたい相手がいない鬼側の生徒のモチベーションが上がらない』と直前に指摘されて、一部ルールを変更する事になった。鬼側の生徒で、最も多くタグを奪った者にも景品を進呈する」 逃げる側のハードルが上がってるような気がするんだが、気のせいだろうか。 「質問は?」 しんと静まり返った体育館内を見回し、会長は満足気に頷いた。 「──よし、それでは鬼側希望者と逃げる側希望者の調整に移る。鬼側希望者は右に、逃げる側希望者は左に集まってくれ」 庶務の双子が真ん中でビニルテープを張り、生徒が移動し始める。その人混みに流されるように、俺と孝希は鬼側のエリアに収まった。 見回してみれば、圧倒的に鬼側の人数が多い。4分の3はこちらにいる。椎森達や梶本の姿も見える。ある程度の予想はしていたが、ここまで偏るとは思わなかった。 それは会長も同じだったようで、一瞬面食らったような表情をする。 「かなり鬼側希望者が多いな……正直どちらでもいいという生徒は逃げる側に移ってくれ」 ぞろぞろと逃げる側に人が流れ、2:1くらいの比率になる。が、それでもまだ鬼側が多い。ここからどうやって分けるのだろうかと、孝希と顔を見合わせた。 「仕方ない。鬼側希望者は4列に整列してくれ」 ごちゃごちゃしていた人の群れが、さっと整頓される。流石お坊ちゃま校だけあって、こういう時はわきまえている。 「逃げる側に一番近い列、そっちに回ってくれ」 おお……危ねぇ…… 俺はその隣の列の先頭。ちょっと位置をミスっていれば逃げる側になっていた。 「葵、数えてくれ」 カウンターを持った副会長が鬼側希望者を数えていく。俺を睨み付けて憎しみを込めながらボタンを押したのは見なかった事にする。最後まで数え終わり、副会長が壇上の会長を見上げた。 「1人多いですね」 「そのぐらいいいだろ」 「いけません。半々になるようにすると決めたじゃありませんか」 「それは臨機応変にだな……」 「ダメです。用意したタグとブレスレットが余ってしまいます」 面倒そうにため息をつき、会長が「わかったわかった」と手を挙げる。降参のポーズである。ゆっくりと鬼側希望者を見回す。 ──バチッ。 目が合った。俺と。
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