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「西嶋? どうした?」
顔を覗き込んでみれば、ふいっと逸らされた。耳がちょっと赤い。
視線を彷徨かせ、西嶋はぼそぼそと小さい声で言った。
「……さっきの……」
「うん?」
「……さっきの女共と遊ぶ方がいいのか」
「……はい?」
色々意味がわからず、目をしばたかせる。遊ぶって何だ。何でこいつは拗ねてるんだ。
答えを返せないでいると、西嶋は苛ついた様子で「俺があいつらを追い払ったのは余計なお世話だったかって聞いてんだよ!」と怒鳴った。
俺は驚いて西嶋の赤い顔を見た。余計なお世話だなんてとんでもない。その逆だ。大いに助かったのだ。なぜそんな勘違いを……そうか、俺としたことが、まだちゃんと礼を言ってないんだ。やっぱり感謝は口にしなきゃな。うんうん。
俺はきりりと西嶋を見つめ、最大限の感謝を表す事にした。
「いいや、全然。本当に助かった。ありがとな」
「ホントか……?」
「ああ。妙な壺買わされなくてよかった」
エッと俺を凝視する西嶋。
物凄い真顔でガシリと両肩を掴まれた。
「待て、認識に食い違いがある」
「何だよ」
「お前、さっきのは何だと思ってる?」
「キャッチセールス」
パッと手を離し俺に背を向ける西嶋。頭を抱えて何やらぶつぶつ言いながら悶絶している。大丈夫か。
「佐藤」
あ、帰って来た。
悶絶から復帰した西嶋は子供に言い聞かせるように「いいか、」と切り出した。
「さっきのは、キャッチセールスじゃない」
「じゃあ何なんだ」
「逆ナンだ」
……ナンですと。
逆ナンってあれか。女が男をナンパするあれか。逆ナンパのパだけ微妙に省いたやつか。それを俺がされたと。
「その発想はなかった!!」
「何でだよ!!」
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