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高校生にもなって鬼ごっことか
「え、昨日椎森達と飯食ったの?」
はあ~、とよくわからない声を発しているのは我が心の友、孝希である。
「まぁ、そんなに悪い奴らじゃなかった」
「そか。桜田はともかく、椎森って奴は案外まともっぽかったしな」
ソファーにだらしなく凭れ掛かって言う。孝希の部屋に見舞いに来てみれば、こういう体勢だった。もう具合は随分良くなったらしい。同室者は学年が上がると同時に転校してしまったので、1人でのびのびしている。
「で、さっき説明した新歓の『鬼ごっこ』……どうする?」
そう尋ねると、孝希はうーんと唸った。
「そうだなぁ……俺は鬼側にしようかな」
「え。孝希もそっちかよ」
「そう言う亮だって鬼側にするんだろ?」
「いや、逃げる側」
はぁ!? と素っ頓狂な声を発して立ち上がる。そんな驚くか。
「お前、正気かよ。逃げる側なんてリスクの塊だろ! 妙な変態に捕まったらどうするんだ!」
「いやいやいや、俺に限ってそりゃないだろうよ……」
三上といい、椎森といい、孝希まで何の心配をしてるんだ。よりによって俺にデートを迫るなんて、それこそ正気の沙汰ではない。
「ったく、お前って奴は……」
何故頭を抱える。
「捕まったらデートだぞ? わかってんのか」
「大袈裟なんだよ。デートっつっても休日にどっか行くぐらいのもんだろ。大したことないって。第一 、俺を追いかける変人はいないし俺もそんなドジは踏まない。隠れて逃げ切ればいいだけだ」
「あのな、お前を追いかける奴なんかいないって言ってるけどな、お前、1人忘れてない?」
「ん? 誰の事だよ」
首を傾げると、孝希がチッチッチと指を振る。
「いるだろうが、1人、強烈なのが」
んん……?
強烈なのが、1人……?
パッと黒い物体が頭に浮かぶ。
「桜田か……!」
しまった……完全にあいつの存在を失念していた。そういえば、奴はファーストキスは俺としたかったとか何とか爆弾発言をかましていたのだ。思い切り要注意人物である。
「な、だから鬼側にしとけよ」
肩にポンと手を置かれる。
「あいつに捕まったら最後、お前の平凡ライフはパーだぞ」
「……わかった」
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