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デジャヴ
春休みが始まって直ぐのあの日、俺は図書館からの帰り道を歩いていた。今日は天気もいいし気温も丁度いい。そんなウキウキした気分でゆったり歩いていたその時である。
「やめて下さいっ!」
閉館までたっぷり5時間半、心置き無く書物を読み漁って上機嫌な俺の耳に、緊迫した叫び声が届いた。
「何だ……?」
悲鳴は前方の路地の辺りから聞こえてきたらしい。通りすがりにひょいと覗いてみる。
「げ」
直後、激しく後悔した。
カツアゲだ。
「お前、霧ヶ丘学園のヤツだろ?」
「お坊ちゃんなんだから金持ってるよなァ?」
「ちぃーっとオレらに貸してくれよ」
不良らしい3人組に絡まれているのは、霧ヶ丘学園の制服姿の小柄な少年。ガタイのいい3人に殴られでもすればひとたまりもないだろう。
「だからっ……お金は、持ってません……!」
「ああ? 嘘ついてんじゃねーぞ」
「調子に乗んなよ中坊がよォ」
ジリジリと壁際に追い詰められる少年は、怯えた表情で震えている。彼がこの状況から自力で脱け出すのは不可能に近かった。
どうする。助けるか、関係ないと見過ごすか。
モヒカン頭が少年の胸倉を掴んだ。拳が振り上げられる。
「誰か……っ……誰か助けてっ!!」
迷っている暇はなかった。
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