彼女はいつでも笑う

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 高校に入学して一週間たって学校に向かうことがやっと日常になった気がした朝。  通学途中の少し大きめの川を越えた先にある、まもなく満開を迎える桜の木から声がしたように思え、ふと見上げてみると枝の上に女子高生が立っていたのだった。  制服の短いスカートの中から黒いタイツを身に着けた細い脚が伸びている。  いくらタイツを履いているからといっても女子高生が制服のまま木に登って立っているなんて無防備でしかない。何をしているのかと観察していると、どうやら彼女は木に登って降りられなくなった仔猫を助けようとしているようだった。  彼女が立っている枝より更に高い枝で怯えている仔猫に彼女は何かを語りかけながら腕を伸ばしていたのだ。  彼女自身が今にもバランスを崩しそうで段々ハラハラするな。  慎重に伸ばされた彼女の手に向かって、仔猫は警戒しながらもゆっくりと歩を進めた。  そして手の届くところまで来た仔猫を彼女は優しく抱き抱えたのだった。  僕はその姿を見て安堵し、感嘆の声を無意識に上げていた。  無意識だったとは言え、声を出してしまったのはまずかったようで、彼女は僕の声に驚いて振り返った。  不安定な足元はそんな急な動作に耐えられなかったのか、足を滑らせて枝から落下してしまったのだ。  僕は反射的に彼女を受け止めた。  と、言えたら良かったのだろうけど、一瞬の出来事に僕はただ立ち尽くしていただけで、彼女はそのまま足から落下して上手く着地したかと思ったが妙な動きをしてそのまま前方に転倒したのだった。  しかも両手で包み込んだ仔猫を離すことをしなかったため、彼女は伸ばした両腕を頭より高い位置にあげた状態でスライディングしたような格好になっていた。 「だ、大丈夫?」  見ているだけで何もしなかった僕が心配の言葉をかけるなんて、ひどく情けなくてズルい人間の様に思えた。しかも、わざとじゃないと言っても彼女が転落するきっかけを作ったのは多分に僕なのだから。  彼女は地面に着いて泥だらけになった顔を上げた。  木に登っている時は気が付かなったけど、彼女の顔には二つの大きな目が幼く見せていたが可愛かった。  その二つの目は僕のことなど眼中にない様子で仔猫をジッと見ていた。  仔猫は彼女の視線に気づくと手の中からスルリと抜けて、少し離れたところで一度振り返って「ニャァ」と鳴くとそのまま去ってしまったのだった。
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