彼女はいつでも笑う

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 助けてもらったのにさっさとどこかに行ってしまうなんて薄情だな。  なんて猫に思ってもしょうがないのかもしれないけど。  だけど、去り行く猫から視線を戻すと彼女は嬉しそうに微笑んでいて、その表情が何もすることができなかった僕に突き刺さった。 「君、大丈夫?」  僕はもう一度彼女に声を掛け、一拍考えてから手を差し出した。 「あ、ありがとう」  さっきとは違う種類の笑顔を浮かべて、戸惑うこともなく彼女は僕の手を取って立ち上がろうとした。  女の子の手を握るなんて小学校以来で少しドキドキしてしまう。  そんことを思っていたせいか、急にバランスを崩した彼女を支えることができなくて、彼女に引っ張られる形で一緒に倒れ込んでしまったのだった。 「うわっ、ごめん」  尻もちをついた彼女に覆いかぶさるように倒れた僕は慌てて立ち上がった。  最悪だ。  彼女の落下の原因を作るばかりか、助け起こす事もできずに、また尻もちをつかせてしまった。 「あはは、大丈夫。こちらこそバランス崩してごめんね」  一瞬体を強張らせた彼女は直ぐに照れたような笑いを浮かべ謝った、僕はそんな彼女を見て更に罪悪感に苛まれた。  直ぐにでもこの場から逃げ出したい気持ちを抑えて僕は気持ちを奮い立たせもう一度彼女に手を差し出した。  もう、この手を取ってもらえないかもな。  だけど彼女は少し強張っているけど優しい笑顔を作って僕の手をもう一度取ってくれたのだった。 「さてと、仔猫も無事に助けられたしそろそろ行かないと遅刻しちゃうね。あなたクラスと名前教えてくれる?」  満足そうに伸びをしている彼女の身体をよく見ると泥に混じって血が滲んでいたのだった。 「一年四組の宮元知樹(みやもとともき)。です」 「四組なのね、よかった! そしたら担任の伏見(ふしみ)先生に新川由美(しんかわゆみ)は保健室に寄ってくるから遅刻しますって言っておいてくれるかな」  彼女はそう言うと地面に置かれた鞄を拾い上げ僕の返事を聞くこともせずに行ってしまったのだった。  彼女の口ぶりだと同じクラスなのだろうか。  あんな子がいた記憶がなかな。と思ったが入学して間もないのでクラス全員を把握しているわけではないので何とも言えない。  既に小さくなった彼女の後姿を見て自分も急いで学校に向かったのだった。
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