宇宙の缶詰

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「面白いですね。内と外、視線の向きを変えるだけで、空っぽだったはずの缶詰の中身が全宇宙になってしまうだなんて」  レム博士は博識でいらっしゃる、そう微笑む。彼女は二十代後半のはず。だがそのころころと弾む声は、少女のそれだった。もっとも、己の年齢と比較すれば、まさしく少女に違いない。レムは柔らかな心持ちで、伊達に年をとっておらんよ、と返す。 「まだまだお若いですよ。それはそうと、今日はどうしますか?」  地球時間に合わせてある掛時計を見上げる。針は午後三時過ぎを指していた。  では珈琲で。はい、かしこまりまして――呼吸の合った軽妙なやりとりは、懐かしい誰かを思い起こさせる。シイナは束ねた髪を揺らして、キッチンへと姿を消した。  一人残されたレムはダイニングの椅子に深々と腰掛ける。吹き抜けのガラスパネルの向こうに広がるのは、練絹で織りあげた漆黒の褥にきらきらしいビーズを縫い付けた宇宙(そら)、錦の帯のごとく横たわる銀河、そして波打つ銀色野原。     
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