宇宙の缶詰

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 《銀河の最果て》は娯楽に乏しい。三十年もの間、レムが何をして余暇を過ごしていたかといえば、主に天体観測だった。仕事との境目が曖昧な趣味ではあるが。ひねもす観測ドームに閉じこもっていると、思い掛けないものを見つけることがある。新しい惑星や彗星ならば喜ばしいが、そればかりではない。宇宙災害の兆しを発見する時もあり、そうした場合、レムは速やかに関係機関に警告を発していた。  だがくだんの件では、折り悪く大規模・長期間にわたる磁気嵐が発生し、メールによる通信が不可能となっていた。そこでピンチヒッターとして使ったのが『宇宙の缶詰』だ。中に手紙を入れて銀河に流す。ある程度の目測はつけるが、基本的には大海を漂うボトルレターと同じだ。しかし、宇宙航行協定により、宇宙を往く者は、缶詰を発見したら宛先へ届ける(あるいは近付ける)最大限の努力を払うことが義務付けられている。また各所には、缶詰専用レーダーが設置されており、時間はかかるものの到達率は六割という中々の好成績をあげていた。 「博士の警告が無ければ、大惨事になっていたかもしれませんね」 「彼らも無能というわけではない。私が言わなくとも誰か気付いていただろうさ」  レムの言葉を謙遜と受け取ったのか、シイナは控えめに微笑んだ。ふと、話の流れに乗って連鎖的に思い出す。 「そういえば、もうすぐ星祭りだったね」 「ええ。何かご馳走をつくろうと思っていますが、リクエストはありますか?」     
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