宇宙の缶詰

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 普段の食事はもっぱら自動調理器に任せているが、当日は手料理を振舞ってくれるつもりなのだろう。君の作るものならなんでも美味いよと呟くと、彼女はこちらを軽く睨んできた。やや生真面目なきらいがある助手には、この手の世辞――レム自身にとっては嘘偽りのない本音だが――は通用しない。眉を上下に揺らしてその眼差しに応えると、シイナは堪えきれずに小さく噴き出した。そうして緩んだ空気の中、なんでもないように尋ねる。 「彼は、今年はやってくるのかね?」 「来ないんじゃないでしょうか。去年も来ませんでしたし、もう諦めたんでしょう」  珈琲にクリームを落としながら、シイナは呟く。くるくると渦巻く乳の道。それを辿る孔雀石色の瞳が、長い睫毛に翳る。細い指が、鋼繊維のようなプラチナブランドを耳にかける。白大理石のような顔色が、さらに透明に色を失う。  その変化は微細なものであった。しかし、彼女とはもう五年の月日を向かい合って過ごしているのだ――。  美しい助手を眺めながら、レムは残りの珈琲を啜った。 *    河岸にはススキ野原が広がり、さあさあと風にさざめいていた。それはまるで、一本一本が白いハンカチを振って、去りゆく季節に別れを告げている様にも見える。時折、尾花の隙間からまっ青なリンドウが顔を出し、ランプのようにちらちら瞬いては揺れた。  観測基地を出て、シイナは《庭園》と呼ばれる惑星地表の自然保護区域を歩いていた。     
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