宇宙の缶詰

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 シイナは感嘆とともに、空を仰いだ。彼方より飛来した白い鳥の群れ。清らかな銀河の水を求めて、星から星へと渡り飛ぶ、星間渡り鳥だ。姿形は地球の白鷺とほとんど違わない。正式な学名はまだ無く、シイナたちは単に、鳥、白鷺、Egret(イーグレット)などと呼んでいた。  群れは銀河の中洲に降り立つが、一際大きな体躯を持つ雄鳥だけがシイナの前に舞い降りる。  彼はこの群れのリーダーだ。仲間が食事をする間は、こうして外敵と向き合い、皆を守護する。敵とみなされているのは少々複雑な気分だが、とっくり見つめ合えるのは喜ばしい。それほどに彼は美しかった。  瑪瑙の嘴、黒真珠の瞳、蛋白石の輝きを帯びた羽毛。首はしなやかなS字カーブを描き、ふっくらとした背や胸からは細い細い生糸のような飾り羽を垂らしている。  なんと高雅、なんと優美、なんと威風堂々。  何度見ても、熱い驚きと感動が、身体の芯から湧き上がる。シイナはその雄鳥にだけ名前を付けていた。もっとも、自身の胸の(うち)に限ったもので、レムにすら教えていないが。その名が喉元まで出かかった、刹那。  ザァっ――一斉に鳥たちが羽ばたいた。  シイナの頭上を飛び越え、気流に乗り、一息に駆け抜ける。広げた双翼が星明りに透かされ、鍵盤のように行儀良く並んだ骨格までがはっきりと見て取れた。さながら、夜空に張り付けられた鳥の標本。その神がかった精密さに思わず息を呑む……     
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