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今さら、出て行けと洋二を追い出すこともできず、あれこれ話を聞いて「すいません、すいません」と頭を下げる役割はいつも、私のほうへまわってきてしまう。
洋二の両親とは、既に挨拶も済ませていたから、余計に気を遣う。
時には、洋二の母親とふたりで、出かけたりすることもあるから。
食事をするたびに、「あの子をよろしくね。今はいろいろな形があるから、結婚とか、出産より二人の楽しみを考えて」と、表向きは耳障りのよい言葉を並べていた反面、目が笑っていない笑顔はしらじらしく、料理をまずくさせられた。
我慢を強いられるのも、いろいろ言われて頭を下げるのも、全部私だった。
いつか、どうにかなるだろうと思っていた。淡い期待ぐらい、胸の底にしまっておいても、罪にはならないと。
でも、現実はそんな、うまくはいかないし、期待なんか裏切られるためにあるような、もろくて、はかないものかもしれない。
見なきゃよかった、遠回りして、神社の前なんか通らなきゃよかった。
のらりくらりとしていても、自分以外の体温が部屋にあることが、私にとってありがたくて、ゆるい優越感を味わうことができたから。
年下の恋人と住んでいる、中年の女。外から見たイメージは、悪くない。
中身は、さえない中年女の惰性と、仕事が壊滅的にできず言い訳と時間ばかり消費している、自分を改めない残念な男の共同生活。同棲なんかじゃない、共同生活だ。
私とはしなくても、あの子とはするんだろうな。
悲しくなって、帰り道を急いだ。
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