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JR札幌駅の発車案内板は、北海道内各地に放射状に運行されている列車の発車時刻を告げている。いつも通学で通り過ぎるだけのその景色は、その日の藤堂裕紀の目には、無限に広がる星空の中で、どの星にワープするかを選択する画面のごとく、未来への希望に溢れているように見えた。
函館の高校を出て、北大の経済学部に進学してから二年が経つ。今となっては、出るべき講義と出なくてもいい講義の区別もつくようになったし、レジュメや代返を頼むことのできる友人にも恵まれた。そうでなければ、こんなに晴れやかな気持ちでここに立つことは叶わなかったろう。経済学部が巷で「暇経」とあだ名されるだけのことはある。
休み過ぎて死んでしまうのではないかと思うほど、大学生の夏休みは長い。その中で何を為すかを考えたとき、裕紀が思いついたのは、旅行だった。スカイメイトが使えるうちに、どこか遠くへふらっと旅に出よう。誰にも告げず。何をするわけでもない。ただ普通に食ったり飲んだりして、眠る。それだけでよかった。ガイドブックも下調べもしない、今だからこそできる道楽だ。着替えがなくなったら札幌に戻ってくるということだけが、自分に課した唯一のルールだった。
まずは最初の選択を、札幌駅で。そう思いながら、改札口の人の波に洗われるように、裕紀は発車案内板を見上げていた。
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