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「なんでおまえまでついてくるんだよ」
「だって、おもしろそうじゃん。あたし、特に予定ないし」
快速エアポートの二人掛け指定席に、裕紀と菜月は肩を並べて座っていた。二人の手にしている札幌から新千歳空港までの乗車券には「C制」の印字がなされている。クレジットカードで購入した乗車券であることを示すしるしだ。ついてくると言った菜月を一度は追い払おうとしたが、菜月がスマートフォンを手にして「あ、おとうさぁん。今ね、藤堂先生に札駅で遭遇してねぇ」などと白々しい演技を始めたので、やむなく裕紀が買ったものである。
ちら、と裕紀は隣に座る菜月を眺めた。オフショルダーの白いワンピースが、目に眩しい。高二にしては大人びた顔立ちをしている。本人は地毛だと言い張っているほんのり茶色いセミロング。さすがに塗ったら怒られちゃうや、と舌を出して笑っていた爪はそのままだった。いつも制服姿かジャージ姿しか目にしていなかっただけに、黙っていればそれなりに見栄えがする……と思っていた矢先、菜月が「ねえ」と口を開いた。
「なんだ」
「千歳着いたら、どうするの」
「札幌に戻るか、どっか遠くに行くよ」
「いーねー。どこがいいかなぁ」
「どこがいいかな、じゃないよ。しょうがないから帰りの切符は買ってやる。おまえは札幌に戻れ」
「えーいいじゃん。あたし友達の家に行ったことにするからさ」
「あのな。そもそもおまえ、金なんて持ってないだろ。俺にもそんなに余裕なんか」
「いいじゃん、ね、お兄ちゃん。おねがい」
何がお兄ちゃんだ、くそったれめ。
列車は恵庭を出発した。
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