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結論から言うと、裕紀は東京に降り立ってから、ほぼ菜月に付き合わされる形で、何一つ選択ができぬままであちこちを巡った。都心に出て、渋谷、代官山、表参道と流れてゆく。
一人でいたならば、食への冒涜なのではないかと思うような盛り方のラーメンなどを食おうと思っていたものの、そんなの札幌でも食べられるっしょ、という菜月の言葉に反論する気力すらなくなっていた。結局、菜月が行きたかったというパンケーキカフェでの昼食になった。これこそ札幌で食えるわ、という反論の言葉は、どろどろにベリーソースのかかったパンケーキと一緒に胃に送り込んだ。んふふー、と口の周りを赤く汚しながらパンケーキを食べる菜月を見ていたら、まあもういいか、こいつも喜んでるっぽいし……という、親心のようなものが芽生えてしまったからかもしれない。
店を出て「さ、次はどこに行かれるのかな。お嬢様」と声をかけると、菜月からは「あ、もうだいじょうぶ。裕紀くん決めていいよ」という、ここに来て意外な返事が返ってきた。
「もう行きたいとこ、ねえのか」
「だいたい行き尽くしたね。やー、ご満悦ご満悦」
「他人の金だと思って、恐ろしいやつだ」
その言葉を菜月はしれっと聞き流した様子で、言った。
「もうこんな時間かあ。今日どうする。東京に泊まる?」
「あのな。おまえの親に断りもせずにこんなことしてんのがバレただけでも、俺は退学モノなの。悪くすれば未成年者誘拐で学位じゃなく前科のプレゼントだ」
「えー。お互いに合意の上なら別によくない?」
悪びれる様子のない菜月に、裕紀は溜息をついた。
「当事者が同意していたとしても、未成年者の場合、保護者の同意がないのにそういうことをした時点でアウトなんだよ。裁判例ではな」
「へえ。裕紀くん、法学部生みたい」
「おまえはスマホでTikTokばっか観てないで、少しはニュース観ろ」
「はぁい」
いつも菜月に勉強を教えているから、裕紀にはよくわかる。この「はぁい」は、何一つわかっちゃいない時の「はぁい」だった。
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