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「あれはねぇ、昔っからあの山に棲んでるんだって。なんでか知らないけど、毎年この時期だけふもとに降りてくるの」
どこをどう走ったのか。気が付くとたどり着いていた見覚えのある一軒家にて、ここの住人である幼なじみはそう解説した。ついでにごめん、と潔く頭を下げる。
「夕暮れが近くなると戻り始めるから、もう大丈夫だと思ったんだけど……やっぱ神様なめたらいけないわ、うん」
「神様!? あれが!?」
「そ、あんたがおばあさんに聞いた話のね。元々『カミ』は人知を超えた力を持つものって意味だし、自分たちでコントロールできないものにそう名付けたんだと思う」
ただ、あれは誰にでも見えるものではない。見えないもののことを説明するのはとても難しいので、言い伝えとして入山禁止のルールを語り継いだのだろう、とのことだった。
大体事情は呑み込めた。が、どうしても気になることがある。私は意を決して口を開いた。
「……もし出くわしたら、どうなるの?」
「さあ? でも長年林業やってるうちのおじいちゃん曰く、しきたりを無視して山に入った奴は誰も帰ってこなかったらしいよ。ありゃ獲られたな、とも言ってたっけ」
あれだけ離れていても漂ってきた、生臭いにおい。何が起こったかわかってしまった気がして、私は思わず口元を押さえた。
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