世界の果ての国

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 *  壁をのぼるためには何日かかるだろうか?  百日? それとも千日? もっとかもしれない。  途中で力つきてしまわないように、エネルギーをしっかり蓄えておかなければならない。  わたしは最初の五十日、いつも以上にエネルギー探しに努めた。  空から降ってくる“雨”のなかには、わたしたちに似た形のものが、けっこうある。それらは、わたしたちが使用できるエネルギー物質を内部にふくんでいることがある。  わたしは“雨”を解体し、できるだけ多くのウラン鉱石や水素ガスを集めた。大きなリュックいっぱいにつめこんだ。これで準備は万端だ。  翌日から崖をのぼった。  このさきに何があるだろうか?  父が言うように、世界の終わりがあるだけ?  それでもいい。  そこに仲間がいなくても。  わたしは、せめて光というものが見てみたい。  壁をのぼり始めて一日め。  わたしは順調にのぼっていた。  壁にはかすかながあって、わたしが手足の指をひっかけてあがっていくのには充分だった。  百メートル、二百メートルとあがる。  みるみるうちに、わたしたちの家は遠くなった。  さよなら。お父さん。わたしは必ず、この壁を越えてみせるよ。そして、この世から失われたという光をこの目で見るんだ。  わたしは胸の内で亡き父に別れを告げ、決してあきらめないことを誓った。  二時間後だっただろうか。  壁にわたし一人が腰かけることができる、たいらなでっぱりがあった。でっぱりの下には十センチ四方の穴があいていて、そこから熱風がふきだしていた。  でっぱりに異物が混入しないための(ひさし)のような構造だなと、わたしは思った。なんでかわからないが、この壁は妙に人工的だ。  とはいえ、そこは休憩場所にちょうどいい。  わたしはそこにすわり、小さな固形燃料をお腹にある火力発電用の投入口に入れた。  わたしは父から多くの発電方法をあたえられている。  この壁がどのくらいの高さまで続いているかわからないので、エネルギー効率のよい素材はできるだけ、あとまでとっておきたい。  庇にぶらさがって口から熱風をとりこみ、風力発電をすれば、ほんの数パーセントぶんとはいえ、エネルギーが回復できる。  この庇はそのあと、何度も同じものを見かけた。  とても助かる拠点だ。  わたしは庇を見つけながら、のぼっていった。  五百メートルに一つの割合で庇を発見した。  やっぱり、人工的に配置された何かの機関の一部に思える。  庇にすわって、わたしたちの世界をながめていると、なんだか、ゴミためのようだなと思った。  ゴミというのは使えない“雨”だ。  父がそう言っていた。  使えない雨はどんどんたまっていく。  だから、わたしたちは年に何度も家を建てなおさなければならなかった。  そして、雨はたまりすぎると、ときおり地すべりを起こして、燃える赤い川に流れおちていく。多くの雨が一瞬で溶けて燃えつきるところを、わたしは何度もながめたものだ。  雨は日に一度、必ず決まった時間に降ってくる。  その日も、もちろん降った。  わたしが庇の上から下をながめていたとき、いきなり、それが起こった。  油断していたわたしは容赦なく鉄のかたまりを全身にあびて、あっけなく壁から落下してしまった。  途中で何度か庇に手を伸ばしたが、うまくつかめず、けっきょく真下まで落ちた。  残念だが、失敗だ。  大きなリュックを背負っていたから、そのぶん雨をあびる面積も増えるし、重さで落下速度があがってしまった。  この方法ではダメだと、わたしは悟った。
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