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次の日から、また、わたしの下準備が始まった。
薄いステンレス板をたたいて形を整え、小さなリュックを作った。そして、そのなかに固形燃料をつめこむと、高さ千メートルのところまでのぼった。
そして、その近くの庇の下にピックを打ちこみ、リュックをぶらさげた。熱風で発火しないよう、充分、距離をとった。それでも、庇がリュックを雨から守ってくれる位置だ。
そこからいっきに落下すると、わたしは次のリュックにも固形燃料をつめた。三千メートル付近の庇の下に、そのリュックをぶらさげた。その日はそれで一日が終わった。
次の日も、わたしは同じことをくりかえした。
だが、五千メートル付近にリュックを一つぶらさげるだけで、一日をついやしてしまった。
高度があまりにも高いと、とびおりて底までもどるというわけにもいかないので、さらに時間をくってしまう。
その次の日は八千メートル付近までのぼり、リュックをさげたが、のぼるだけで一日が経過した。おりるのに半日かかった。
八千メートルまで来ても、まだまだ壁は続いている。
あまりにも効率が悪いので、わたしは考えた。
そして、鋼鉄のワイヤーとリールがあれば、もっと手早く壁をのぼれることを思いついた。
壁の随所に鋼鉄製のフックを打ちこみ、そこにワイヤーを通して、リールを使ってボディを上下させる、お手製の昇降装置だ。
リールは付け外し可能にすればいいので一個でことたりる。が、このために大量のワイヤーが必要だった。わたしは鉄クズを精錬し、ワイヤーを作成するために十年を要した。
しかし、そのおかげで、壁の昇降は格段に効率があがった。
わたしは、たくさんの小さなリュックを作り、そのなかに固形燃料やウラン鉱石をつめた。
ウラン鉱石は数が少ない。でも、ウラン鉱石での発電はかなり長期間におよぶから、配置しておく間隔は遠くてすむ。
だから、ウラン鉱石のリュックは壁の上部に置いた。
ウラン鉱石を置いていたときだ。
高度七十万キロに達したとき、わたしは上部に、ほのかに白いものを見た。うすぼんやりと空が明るい。それが光であると、わたしは直感した。
あれが、光。
生まれてから闇しか知らないわたしにとって、それはとても神聖で神々しいものに見えた。
あそこに行きたいと、心の底から願った。
(光は失われてなんていなかったんだ! お父さん、あれが光だよ)
父にも見せてあげたかったが、それは今さら言っても、どうにもならない。
わたしは自分自身のために、その光をめざす。
光までの距離は、そこまでのぼった距離の倍はあるように見えた。高度二百十万キロ。気の遠くなる距離だ。でも、わたしはあきらめない。
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