3 発熱

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3 発熱

 0時になった瞬間、更新ボタンを押した。なかなか切り替わらない画面に内心舌打ちしながら、手続きを進める。狙いは、人気のライブチケットではない。病児保育のある小児科の予約だ。  今度は息子が発熱だ。  子どもが集まる場に行くというのは、常に感染症にかかるリスクを伴う。予防できるものばかりとは限らない。むしろ、免疫獲得には必要な過程だ。  抱き寄せた身体が熱く、高い熱に気づいたのが日曜の昼。救急受診したところで、出来ることは少ない。一縷の望みをかけて、感冒薬だけで経過を見た。残念ながら熱は下がることはなかった。  働きながらの子育ても5年も経てば、緊急事態への対応も早くなってくる。  目標は、病児保育の確保。そのための小児科予約・受診。職場への連絡・調整。必要な作業を確認し、頭の中で組み立てていく。  まずは月曜午前の業務内容を、職場に確認。イレギュラーな予定が2つ入っているが、10時までに出勤できれば何とかなりそうだ。次は、病児保育だ。空きの有無は、月曜朝にならないとわからない。だが、経験上週末に治った子のキャンセルが出るはずだ。小児科さえ早めに受診できれば、勝機はある。そのために必要なのが小児科予約だ。  かかりつけ医院はweb予約制で、午前0時にその日の予約が開始になる。その昔、午前5時にサイトにアクセスしたら、その時点で28人待ちと表示され天を仰いだ。それからは、日付が変わる前にスマホ片手に構えるようになった。  0:01、『予約番号は6番です』。  果たして、間に合うだろうか。湯たんぽのように熱い息子を抱き寄せ、目を閉じる。  もしも、病児保育に入れなかったら。  義母に連絡する?(夫と義母は、喧嘩をしたまんまだけれど)  職場に連絡する?(仕事を休むわけにもいかないけれど)  そもそも、これだけつらそうな息子を預けて、私は何をしている?    もはやどれを選んでも、誰かに迷惑をかける選択肢しかない。あと私が出来ることは、祈ることくらいだ。  息子の寝息が聞こえる。熱があるとき特有の、浅くはやい呼吸の音が耳に残った。
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