また失敗しちゃった

5/6
前へ
/8ページ
次へ
 ――羽鳥家はいわゆる吸血鬼の一族だ。  そのルーツはルーマニアにあり、数世代前に迫害を逃れて日本へと渡ってきた。  吸血鬼と言っても、日の光の下でも普通に暮らせる。無暗に他人の血を欲しがる訳ではない。ニンニクや十字架も苦手ではない。繁殖方法だって人間と全く変わらない。  人間と大きく異なるのは、不老の身体を持つ点。そして、夜に血を吸った相手を自分の「使い魔」に出来るという点だった。  「使い魔」になった人間は自我を失い、血を吸った吸血鬼とその血族の命令だけを聞く操り人形となる。  主たる吸血鬼が命令しなければ、一切の自発的行動をしなくなってしまうのだ。肉体は生きているが精神は死んでいる、ゾンビのような状態だ。  しかしごく稀に、「使い魔」にはならず、自我を保ったまま「吸血鬼」の仲間入りを果たす人間がいる。  どういった人間がその素養を持っているのかは不明だが、羽鳥家に伝わる言い伝えでは「強い精神か肉体を持つ者」がそうなるのだという。  実際、絵莉の数世代前の先祖の一人は元人間であり、「新しい仲間」として吸血鬼一族に迎えられたのだとか。  夫の喪が明けてから新たな伴侶を求め始めた絵莉だったが、日本国内の吸血鬼はもはやごく僅か。彼女の夫となれるような年齢の吸血鬼は存在しなかった。  人間の夫を迎えることも考えたが、吸血鬼と彼らとでは生きる年月が違い過ぎる。不老の吸血鬼と違って、人間の一生はあまりにも短い。  老いて死んでいく夫の姿を見送るなど、絵莉には耐えられそうもなかった。  だから彼女は伝承にすがった。  自分が恋した男ならば、もしかすると「使い魔」にならず吸血鬼の仲間入りをしてくれるのではないか?  そんな甘い考えを抱いたまま、結局は十人以上の男達を再起不能にしてしまった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加