また失敗しちゃった

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「……まったく、処分に困るだけなのに。こりないお母さん」  哀れな早坂の姿を眺めながら、美楽が誰ともなく呟く。もはや彼は、自分の意思で笑うことも泣くことも出来ない。  一応、知識自体は残っているから「いつも通りの日常を過ごせ」と命令すれば、しばらくの間はそつなくこなすだろうが……これ以上、成長も変化もしないのだ。次第に無理が出てくるし、違和感に気付く人も出てくるだろう。  可哀想だが、最終的には事故に見せかけて自殺してもらうか、失踪してどこかの山奥にでも籠ってもらって、そっと死を待ってもらうしかない。  間違っても、自分達に疑いが向かないように、細心の注意を払って……。  そもそも、美楽の父親だって、海外の親戚が不用意に生み出してしまった「使い魔」の処分を手伝いに行ったところを、「教会」の連中に見つかって殺されてしまったのだ。  そういう意味では、絵莉の行動は不用心過ぎる。  日本では「教会」の勢力が弱いとはいえ、見つからないという保証はどこにもないのだから。 「美楽ちゃ~ん、ごめんね~?」 「謝るくらいならはじめからやらないで。もう隠ぺい工作の片棒担ぐのはうんざりだから。いい加減諦めてね? お母さん」  手厳しい言葉にうなだれる絵莉。  美楽は、そんな母親の姿を見ながら「自分は恋などせず一人で生きていこう」と心に誓った。  ――しかし、その誓いは数年後に破られることとなる。美楽は、ある人間の青年と恋に落ちてしまうのだ。  その恋の顛末が一体どうなるのかは……また別のお話。 (了)
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