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第1話
赤い色打掛を着たアザミが張見世に現れると、なるほど、大輪の紅花が咲いたようで、視線を奪われた。
しかし、西園寺にとっては、道端に咲いているような控えめな可愛らしさのあるマツバツバキの方が魅力的に思え、無意識に目がそちらを向こうとする。
格子の向こうの、アザミと同じ空間に、ひっそりとマツバも佇んでいたのだった。
こころ細そうな、どこか縋るような眼差しを向けてくるマツバに、気を取られそうになって……、西園寺はそれを意志のちからで抑え込み、アザミが格子から出てくるのを待った。
西園寺がここ『淫花廓』に通い詰めていることをどこからかキャッチした政財界の某大臣が、
「あの淫花廓に通っていながら、ひとりの男娼しか味わってないなんてナンセンスだ」
と訳のわからない価値観を押し付け、さらには恩着せがましい口調で西園寺へと笑いながら一方的に告げてきた。
「あすこでも指折りの男娼に、私が予約を入れておいてやろう。せっかくだ。たまには豪華なメインディッシュを味わってきたまえ」
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